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山崎元さんの「経済評論家の父から息子への手紙」を読んで

山崎元さんの「経済評論家の父から息子への手紙」という本を読みました。

著者の山崎元さんは2024年1月に亡くなられたのですが、この本は、ご自身の大学生になる息子さんに宛てて書かれた手紙の一部、「お金の稼ぎ方・増やし方」の内容を必要十分な程度に詳しく書いたものだとおっしゃっています。

それなので、想定する主な読者は息子さんのような若い世代なのですが、私のような既にリタイヤした世代にとっても色々考えさせられることの多い内容でした。

山崎元さんについての記事「山崎元さん」はこちら

大まかな構成は

「お金の稼ぎ方、増やし方」というと、一見、コスパの良い働き方や投資や資産運用の方法について書かれたような印象を受けます。

もちろん、著者は経済評論家なので、それらの内容にも触れているのですが、大切なのは、お金を効率よく稼いで、正しく増やし、気持ち良く使ってほしいことが目的だとおっしゃっています。

「正しく増やし、気持ち良く使う」

個人的には、この言い回し、とっても気に入っています。

章立てとしては、

  • 第1章 働き方・稼ぎ方
  • 第2章 お金の増やし方と資本主義経済の仕組み
  • 第3章 もう少し話しておきたいこと
  • 終章 小さな幸福論
  • 付記 大人になった息子へ―息子への手紙全文
  • あとがき

というたてつけになっています。

これらの章の内容で、特に第1章、第2章、終章で、私が感じたことをつらつらとお話します。

若干ネタばれになってしまう部分もあるかもしれませんが、おつきあいくださいませ。

第1章「働き方・稼ぎ方」

まず第1章の「働き方・稼ぎ方」の「働き方」についてですが、著者は、「できるだけ安定した大手企業に職を得て、労働を高く長く売る」という昭和世代の働き方の常識は、「つまらなく、割が悪いからやめておけ」とおっしゃっています。

新しい働き方を

具体的には、

  • ひとつの組織に長くいる場合、影響を受けるのが人事で、一度これで失敗(悪い評価を受ける)と、あとを引きその後の出世コースからははずれてしまう
  • また、仮にその競争を勝ち抜いて出世したとしても、そこそこの中金持ちになる程度で、さらにそれは晩年の場合が多く、つまり、自分の時間を売った引き換えにそれらを得たにすぎない
  • つまり、彼らが得たもの(出世した地位と収入)と失ったもの(会社にささげた時間と労力)を比較すると、割が合わない

ということです。

これから社会人となる息子さんに対しては、そういう働き方ではなく、新しい働き方をするように提言されています。

それは、

  • 時間の切り売りをせず効率よく働き、なるべく若いうちに財産を作ることを目指す
  • 働き方の自由の範囲を大きく広げる

そして、その為には、

  • 常に適度なリスクをとること
  • 他人とは異なる労働力になるための工夫をすること

が必要だとおっしゃっています。

この逆、つまり、リスクをなるべくとらずに他人と同じ働き方(昭和世代の働き方)をしていると、現在では、不利な方へと流されてしまうからです。

経済の世界では、リスクを取らない、取りたくない人が、リスクを取る人に利益を提供するようにできていて、現在はそれが顕著になっていて、だからこそ、それに気づくことの効果が大きい、と。

新しい働き方の具体的な手段

そして、新しい働き方の具体的な手段は「株式とうまく関わること」、それは、株を運用して儲けることではなく、株式やそれに連動する形で報酬を得て稼げということだそうです。

具体的には(以下引用)、

(1)自分で起業する

(2)早い段階で起業に参加する

(3)報酬の大きな部分を自社株ないし自社株のストックオプションで支払ってくれる会社で働く(外資系企業に多い)

(4)起業の初期の段階で出資させてもらう

の4つ。

どれも、100%自分の時間と労力を会社にささげる労働者として働くのではなく、できるだけ資本家サイドに立って働くということですね。

自分自身を振り返ると・・・

なるほどなぁ・・・・

これらが実際にできれば、ある一定のリスクはあるものの、確かに、なるべく若いうちに資本家サイドに立って効率よく稼ぐ、働くことができますよね。

そして、その働き方の自由度の範囲も、従来の昭和世代の働き方から大きく広がっています。

私はひとつの会社で定年まで勤め上げたわけではなく、何回かの転職は経験したものの、それでも、働き方としては、自分の時間と労力を会社にささげる昭和世代の働き方そのものでしたね。

会社員以外の働き方なんて、私の頭の中には全く存在していませんでしたが、会社員生活の最後の方で自社株を購入したことが、唯一の「にわか資本家もどき?」としての行動だったかなぁ・・・

まさに昭和世代の働き方をまっとうした私ではありますが、今では少し著者のおっしゃることはわかるような気がします。

それは、今や、かつて安泰と言われた大起業が倒産したり、大規模リストラしたりなど、大企業の社員だからと言って決して安定した身分とはいえないからです。

そんな世の中の大きな変化に気づいているのか、見て見ぬふりをしているのか、いまだに昭和世代の働き方の価値観を後生大事に抱いて、子どもにもそういう働き方をさせようとしている中高年世代、私のまわりにもいます。

自分の価値観とするのは自由ですが、「これからを生きていく子供たちに強いるのはちょっと違うのでは?」という気がします。

第2章「お金の増やし方と資本主義経済の仕組み」

次に、第2章の「お金の増やし方と資本主義経済の仕組み」についてです。

お金の増やし方

著者は、お金の運用の基本についての必要な基本はこれだけだとおっしゃっています。(以下引用)

(1)生活費の3~6か月分を銀行預金の普通預金に取り分ける。残りを「運用資金」とする

(2)運用資金は全額「全世界株式のインデックスファンド」に投資する

(3)運用資金に回せるお金が増えたら同じものに追加投資する。お金が必要な事態が生じたら、必要なだけ部分解約してお金を使う

というものです。

これは、以前に書いた記事「全面改訂第3版 ほったらかし投資術」の中で述べられていることと基本は同じで、非常にシンプルで多くの人にとって実行しやすいです。

「全面改訂第3版 ほったらかし投資術」の記事はこちら

「全面改訂第3版 ほったらかし投資術」の著書はこちら

そして、運用の三原則は、「長期」「分散」「低コスト

私が資産運用を始めた10年前は、全世界株式と日本株式に半分ずつ投資するというものだったと思いますが、大枠の考えは変わっておらず、10年たった今も私は「長期」「分散」「低コスト」の三原則に沿ってコツコツと積み立て投資を続けております。

この三原則に沿ったお金の増やし方は、若者世代だけでなく、我々中高年世代にも対応できるシンプルかつ、実行可能な方法だと思います。

10年前に山崎さんのこの教え(?)に出会うことができて、本当に良かったです。

資本主義経済の仕組み

そして、資本主義経済の仕組みについてですが、「会社の利益は資本か労働によって発生するものだが、ここでは資本を利用する労働に注目しよう」とおっしゃっています。

具体的には、

  • 例えば、2万円の利益が出る生産に関わっている労働者に払う賃金が1万円だった場合、資本には残りの1万円の利益が貯まる
  • この1万円の利益は借入の返済などにも充てられるが、その残りは株式を通じて資本家のものになる

このようにして、「典型的には、労働によって利益が提供される仕組みになっている」と説明されています。

さらに深堀りしてみると、

  • 2万円の生産に貢献していても、労働者に払われた賃金は1万円
  • しかし、労働者は1万円の賃金で不満かというと、そうでもない
  • 彼らは、1万円とひきかえに安定した雇用と賃金を求めているから

という構造になっていて、しかも、この労働者は取り換え可能で、弱い立場にあります。

まさに先に紹介した、リスクを取らない人がリスクを取る人に利益を提供するようにできている仕組みそのものですね。

だからこそ、先の「新しい働き方」のところで著者が示したように、常に適度なリスクをとること、他人とは異なる(替えのきかない)労働力になるための工夫をすることが必要だと、息子さんに伝えているわけなんですね。

確かにその通りだと思う一方、「それってそれなりにハードルの高いことだなぁ」とも思ったりします。

今私が著者の息子さんと同じ世代だったら、どんな風に感じて考え、そしてどんな風に行動するだろう・・・・?

リスクをとる働き方、つまり、起業したり、株式に関わってできるだけ資本家サイドに立った働き方、他人とは異なる替えのきかない働き方ができるだろうか?

正直、見当がつきません。

終章「小さな幸福論」

そして、私が一番考えさせられたのは、終章の「小さな幸福論」の中での著者の言葉です。

著者は「人の幸福感はほとんど100%が「自分が承認されているという感覚」(「自己承認感」としておこう)でできている。そのように思う」(引用)とおっしゃっています。

さらに(以下引用)、

「思うに、幸福は、人生の全体を評価・採点して通算成績に対して感じるようなものではなくて、日々の折々に感じるものだ。」

「日常の一日一日、一時一時を大切にしよう。幸福感は「その時に感じるもの」だ。」

「そして、自分にとって、どのようなことが嬉しくて幸福に感じるのかに気づくといい。できたら、それを言語化しておこう。」

「父は、自分を顧みて、何か新しい「いいこと」を思いついて、これを人に伝えて感心された時に自分が嬉しいことに気づいた。」

こう書いている山崎さんは、ご自身のモットーを(以下引用)

(1)正しくて、

(2)できれば面白いことを、

(3)たくさんの人に伝えることです。

と言語化されています。

凛とした潔い生き方

思うに、山崎さんはこのモットーを最期まで貫かれた方でした。

それは、がんと戦いながら、ギリギリまでユーチューブに出演したり、著書を執筆し続けたりして、多くの人に有用な「長期」「分散」「低コスト」の三原則の資産運用方法を一貫して提言され続けたその姿勢が何よりも物語っています。

きっと多くの人が山崎さんのこの方法を実践され、その効果を感じていることと思います。

私もその一人です。

「自分の提案が多くの人から支持され、評価され、承認されていることに幸福を感じられたからこそ、その幸福感が、がんと戦いながらも最期まで行動し続ける源になったということなのかなぁ」と想像します。

私がイメージする山崎さんのこの姿勢を表す形容詞、いくつか考えてみました。

  • 毅然とした
  • 凛とした
  • 潔い
  • ひるまない
  • 臆さない

ぴったりの言葉が見つかりませんが、私の語彙力ではこのあたりが限界です。

山崎さんの足元にはとてもとても及びませんが、私自身も、「凛とした」や「潔い」という言葉が好きです。

これらの言葉の持つ、内に秘めた静かな強さに惹かれます。

できるだけこうありたいと思える形容詞です。

自分の最期がどういうものになるのか今は見当もつきませんが、せめて生きている間は、やりたいことに向かって「凛とした潔い生き方」をしていきたいです。

そうすれば、かなり満足できるような気がします。

私にとって、それが幸せなことなのかもしれません。